ヒラヒラと舞う白いカーテン
開け放された窓から吹き込む暖かなそよ風は、紛れもない春風
こんな日は病室に篭もってなんていられない
腕に繋がれたチューブ、その先にある点滴の袋はまだ中程も落ちきっていない
ああ、早く全て落ちきってしまえ
こんなにも天気が良くて暖かいのに、いつまでもベットに横たわっているなんて御免だ
今すぐにでもこの忌々しい管を引きちぎって外に飛び出したい気分なのだが、そんなことをしては看護師さん達に怒られてしまうし
何より、これも治療の一環という訳で
早く退院するためにも甘んじて受けるしかない
ペースメーカを埋め込めば治るらしいから、それまでの辛抱だ
ポタポタと一滴ずつ落ちていく薬品を睨みつけ心の中で「早く早く」と急かしてみても速度は変わるはずもなく(というか変わったら大変だ)
柔らかい春の風に髪を嬲られながら点滴を凝視すること数十分
「終わった・・・・!」
最後の一滴が落ち終えるのをろくに確認もせず枕元のナースコールを連打した
やって来た看護師さんは苦笑しながら、いつもより早く点滴を外してくれた
一応は隠していたつもりだったのに浮き足だった私の様子を感じ取ったようだ
だって早く外に出たいんだから仕方ない
「はい、終わったわよ」
針の刺さっていたその場所にガーゼが当てられテープが貼られて
看護師さんが病室から出て行くのも待たずに傍らに立て掛けてあるヴァイオリンケースを抱えてすぐさま廊下に飛び出した
目指すは屋上!
ばたばたと忙しなく廊下を疾走
この際、心臓のことなんて頭から消えてなくなった
途中、今回の手術を執刀する朝田先生が「あんまり無理するなよ」と声を掛けてきたが振り向きもしないで「大丈夫ですっ」と適当に返す
ご免なさい先生、私は早く外に出たいんです
息が切れて肺が悲鳴を上げるがそんなこと気にしない
屋上までの階段を一気に駆け上がり乱暴に鉄製のドアを開け、そのままコンクリートがむき出しの床に腰を下ろす
「・・・また、そんなに無理して」
ふいに降って湧いたような声に振り返る
あ、やっぱり
「こんにちはー、伊集院先生」
へらへらと笑うと、伊集院先生が呆れたように嘆息した
今日も伊集院先生は絶好調に可愛いです
「さん、こんにちはーじゃないですよ!ちゃんと自分の体大事にしないと・・・」
「あははは、先生お母さんみたい!」
「ちょっ、ふざけないで下さい!」
顔を真っ赤にして怒る伊集院先生の姿がおかしくて、ついつい笑ってしまった
「そんなに怒んないで下さいよ、センセ!可愛い顔が台無しですよ?」
怒った顔も可愛いですけどね
「・・・全く、さんはいつもそんなことばっかり言って・・・・」
「大目に見てやって下さい、お詫びに一曲引きますから」
座って座って、と先生を急かしてヴァイオリンを取り出す
「僕、クラシックはあまり・・・・」
「解ってますって。ちゃんと、一度は聞いたことあるやつにしますから」
渋々と座る先生を尻目に背筋を伸ばしてヴァイオリンを構える
軽く弦を指で弾くと、ゆっくりと弓を引いた
パッヘルベルのカノン
通常ヴァイオリンでの3重奏のこの曲を一人で演奏するのは難しいのだけど
普段耳に残るメロディーラインだけを掻い摘んで弾いていく
頬を撫でては通り過ぎる風に体を預け、歌うように
この瞬間が、世界で一番楽しい
やはり、病室に篭もっているより数百倍も有意義だ
伊集院先生がいることも忘れて曲にのめり込んで
あっと言う間に終盤に差し掛かり、私は最後の一音を静かに弾き終えた
音楽の余韻に浸りながら目を閉じていると、一拍遅れて拍手が聞こえてきた
その音でやっと伊集院先生がいたことを思い出す
このリサイタルの唯一の観客に、私は恭しく頭を下げた
「上手いんですね、感動しました!」
眼鏡の奥にある、黒い瞳を爛々と輝かせて伊集院先生が言う
何故にこんな興奮気味なのかは解らないが、そんな先生もとても可愛らしい
「ありがとうございます」
そんな素直な賛辞がなんだかとても照れくさくて、軽く人差し指で頬を掻いた
「でもね、私以上の弾き手なんて世界中数え切れないくらい沢山いるんですよ?」
そいうと、伊集院先生は酷く驚いたように「そうなんですか!?」と聞き返してくる
本当に、何をしていても良い意味で期待を裏切らない
「そうなんです。だから、私はそんな世界に行きたい。世界中の人が先生と同じように私の演奏で感動してくれるように」
それは、きっと夢のような話
叶うはずのない、子供の戯言
それでも、この人の表情が嬉しかったから
その表情をもっとみたいと思ったから
「私、絶対にヴァイオリニストになります」
膝に抱えたヴァイオリンを優しく撫でながら断言する
そんな言葉に、伊集院先生は優しく笑って
「きっと、さんならなれますよ」
何の根拠もない保証が、何よりも嬉しいなんて
堪らなくなって、思わず伊集院先生のネクタイを掴むと触れるだけのキスをした
「それじゃ、私病室に戻りますね」
真っ赤な顔で呆然と立ち尽くす伊集院先生を置いて私は屋上を後にした
明日は、何を弾いてあげようか
(後書き)
ながっ!びっくりするほど長い・・・・
私にしては異例の長さですよ、これ
しかも、文に脈絡がない;
医龍ドラマ化に勢いで書きましたが・・・・・・・
ヘボい。兎に角ヘボい
今回はドラマのほうの伊集院で
初めは原作で書いてたのに、不思議ですねぇ
医龍夢、あまり広まっていないので今後の成長を期待します