「今日は昼から雨が降るでしょう。出かける際は傘をお持ち下さい」。
まさに、バケツをひっくり返したような雨を前に、今朝お天気お姉さんが言っていた事を思い出した。
安っぽいCGで描かれた日本地図は何処を見ても雨傘マークで、降水確率は99%。
今日び、何処の思春期少年だって反抗せずに傘の一本も持って出るだろう。
少なくとも、私はそう思っていた。
目の前に、ずぶ濡れの青年が佇んでいる事に気づくまでは。
私は、『安全圏』にいる人間だと自負している。
可もなく不可もなく、平々凡々と生きていくのが当然であり、一番身の丈にあった生き方だと思う。
だから、危ない橋は渡らないし、危ない人には関わらない。
その考えを当てはめるとするならば、彼は間違いなく避けて通るべき相手だ。
なのに、
こちらを睨み付ける彼の視線は、
全てを射殺す氷のようで
何者も受け入れない、手負いの獣のようで
そして、
母に置いて行かれた、迷子の子供のようで・・・・・・
一歩踏み出すとバシャッと足下の水溜まりが音を立てた。
構わずもう一歩踏み出す。
その間にも青年の視線は警戒を色濃くしていく。
恐怖を感じないと言ったら嘘になる。
それでも、逃げるよりも大事な事がある気がした。
「はい、あげる」
今にもこちらに斬りかかってこんばかりの青年に、安物のビニール傘を差しだした。
突然の行動が予測できなかったのだろう、訝しげに眉を顰めている。
「私は折りたたみ傘持ってるから大丈夫。だから」
はい、と強引に傘の柄を押しつけた。
そのまま唖然としている彼をよそに、ビニール傘が守る領域から外に出て鞄の中の折りたたみ傘を引っ張り出す。
パンと音を立てて、モダンな水玉模様の花が咲いた。
やりたいことはやったのだ、ここで立ち往生する理由はない。
それ以上彼には何も言わずその場を立ち去ろうと踵を返す。
「・・・・待て、お前、名は何という」
不意に掛けられた声は、少し低くて聞いていて耳に心地良い。
「。 。」
聞かれた事に簡潔に答えると、今度こそ本当に帰路についた。
「 、か・・・・」
その容姿に酷く不釣り合いなビニール傘を片手に青年、忌野 雹が雨の中、微かに微笑んで少女の名を呟いたのは、誰も知らない。
(後書き)
何か、ト○ロに同じようなシーンが合ったような無かったような・・・・・
雨降ってんのに一体何やってたんでしょうかね、お兄様は。