「全く、何してんですか、アンタは!!」





ガタンと激しい音がして引き戸が勢いよく開いた。

この部屋に来るまでに溜め込んだ怒りを、任務の報告書に目を通す男、正守におもいっきりぶつける。

お世辞にも壁が厚いとは言えないが、そんな話しはどうでもいい。

怒っているのだ、とてつもなく。





、人の部屋に上がる時はノックぐらいしろよ?」





至極穏やかな口調でそんなことを言う。

胡座をかいて報告書を捲りながら振り返ることなく、だ。

後ろからおもいっきり殴り倒してやりたい気持ちを理性で抑えつけながらドカッと音を立ててその真後ろに正座した。

こんな人でも取り敢えずは命の恩人であり、この身を捧げると決めた、いわば主でもある。

何より、いくら気配を消して背後から襲いかかろうと、右手一本で軽くあしらわれるのが関の山だ。




「そんなことはどうでも良いんです!聞きましたよ、怪我をされて帰ってきたとか・・・・」



このまま掛け合いを続けていては、話しを誤魔化されかねないと本題に入る。

だが、その背中はやはり振り返ることなく、




「あぁ、あんなの掠り傷だよ」




と、さも何でもないとでも言いたげなやる気のない返事が返ってきた。




「頭領はご自分の立場を理解して下さい!!貴方にもしもの事があったら、夜行は一体どうなるんですか!?」




バシンと畳を思いっきり叩いて怒鳴り声を上げる。

そう、この人が死んでしまっては、夢も希望も、生きる場所すら失ってしまう。

それなのに、この人と来たら全く顧みる素振りも見せやしない。

その姿に溜め込んだ怒りは胸の内で爆発した。




「一応理解は出来ているつもりなんだけどね、俺は」



「理解しているとおっしゃるのなら、何故掟を破るような真似をするんです!?そんなことするなんて・・・・、自ら命を捨てるような物じゃないですか!!」





何時になく激しい怒声を、流石に不信に思ったのか体ごと正守が振り向いた。

こんなに取り乱して、「煩い」と殴られるか、「静かにしろ」とどやされるか、「大人げない」と諭されるか。

だが、予想した反応は何時になっても訪れることはなかった。

フッと優しげに笑って、ポンポンと自分の膝を叩いている。

何を意図するのか全く解らなかったは、小さく小首を傾げた。




「おいで、




この人が一体何をしたいのか、時々解らなくなるときがある。

だが、逆らえないのだ。

その胡座をかいた足の上に、乱暴に座る。

顔が顰められたが、そんなことは気にしてやらない。

回された自分の物より太い腕にいつの間にか拘束される。

心地の良い温もりを背に感じて、体中に渦巻いていたはずの怒りはいつの間にか跡形もなく消え去っていた。





「いっつもこうやって誤魔化すんだ、頭領は・・・・・・」





ふてくされて唇を尖らせる。

怒りは冷めたにしても、こうも簡単に文字通り丸め込まれては自分が情けなくなる。

を抱え込んだまま器用に報告書を捲る正守の横顔をじっと凝視した。

整ったその顔が、薄く笑みを浮かべている。

小さく溜息を吐いて目を瞑った。

フワフワと優しい温もりとページを捲る単調な音に睡魔が襲い来る。

それに特に抵抗することなくは夢の世界へ旅立った。











(後書き)

ごめんなさい;正守さんの膝の上に座りたかっただけなんです・・・・!